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【開催レポート】がん哲学外来 樋野興夫先生講演会『賢明な寛容〜愛に溢れた雰囲気〜』

11月23日(木•祝)に、アートフォーラムあざみ野で開催された「がん哲学外来 樋野興夫先生講演会『賢明な寛容〜愛に溢れた雰囲気〜』」をレポートします。
講師としてお招きした樋野先生は、順天堂大学名誉教授で、一般社団法人「がん哲学外来」の名誉理事長でもあります。

最初は40枚ものスライドを用いた樋野先生の講演から

医療の発祥、出身地(島根県)、がん学・病理学、がん教育、がんの疫学と予防、がん哲学…。樋野先生は「僕の話は何回聞いてもわかんないから」とおっしゃいます。
たしかにそのままだと難しく感じるので、印象的な内容を要約しました。

・がんで死なない時代が来る。がんは防げない。でもがんで死なない時代が来る。

・人生邂逅(かいこう)の3大法則は、よき先生に出会い、よき友に出会い、よき読書に出会う。

・支えると寄り添うの違い、支えるは体重をかけ、寄り添うはちょっと手を差し伸べる。会話と対話の違い。会話は言葉によって、対話は心と心。

・困っている人と一緒に困ってくれる人がいると、その人の悩みは解消する。解決しなくても悩みを問わなくなるのが解消である。

・がん哲学外来は、生きることの根源的な意味を考えようとする患者と、がん細胞の発生と成長に哲学的な意味を見出そうとする「陣営の外」に出る病理学者の出会いの場である。

・いい人生は最後の5年で決まる。

・人はそれぞれ役割、使命が与えられる。存在自体に価値がある。

・正常細胞は使命を自覚して任務を確実に果たす。がんは真の目標を見失った細胞集団。

・40歳で亡くなる人を80歳にする。インテンショナルディレイ(天寿がん実現)、故意に遅らせて天寿を全うしてがんで死ぬ。

・がんは防げない。生きるということが寛解の道。でもがんで死なないという時代が来る。

いかがですか?興味が出てきた方は、映画「がんと生きる言葉の処方箋」著書「もしも突然、がんを告知されたとしたら」「明日この世を去るとしても今日の花に水をあげなさい」などいかがでしょうか。

これぞ樋野先生の真骨頂!質疑応答の時間

講演の後は先生への質疑応答です。たくさん質問があり、どれもとても心に残る内容だったので抜粋してご紹介します。

Q. 新しく出会った人に自分ががんの治療をしていたことを話せません。伝えて心配されたり、驚かれたりするのが嫌なんだと思います。

A. 無理して話す必要ないよ。自分のことは言わなくていいし黙っていてもいい。正論より配慮が大切ですね。これわけがわかんないね。

Q. 家族も支えてくれて、穏やかに過ごしていますが、再発の不安があります。どんな気持ちで過ごせばいいんでしょうか。

A. ほっとけ、気にするなだね。自分でコントロールできることは全力を尽くして、自分でコントロールできないことは受け止めるしかない。過去のことを振り返っても明日のことを思い煩っても仕方ない。
1人で静かに1時間深刻に悩む。例えばその日、1時間読書すると1週間で200ページ、1年間に50冊読めるよね。読書の時間、対象を持つ。そして疲れて、靴を履いて外に出る、そして誰かと出会える。八方塞がりでも天は開いている。

Q. 先生のお話の中で心に残ったのが、会話は言葉と言葉、対話は心と心。会話はあるが対話はないっていうところで。
相手の沈黙に耐えられず、余計なことを凄い勢いで喋る癖があるんですけど、対話を始めるには相手の方とどう接すればよいのでしょうか。

A. 顔が見れる距離で、新聞読もうがテレビ観ようが食事しようが、会話なんかなくてもいいよ。
みんな顔を見て、悲壮感が漂ってるとか、私のことを嫌に思ってるとか、それで嫌になってる。一緒にいて、お互いが苦痛にならない存在になることだね。例えば、チャウチャウ犬なんかは一生懸命生きてるけど、人が見ると微笑ましい。だから一生懸命生きてる姿で、人は尊敬、心が慰められるということですよ。
そして、末期のがん患者のベッドに行って、30分間何も喋らずも相手が嫌にならない人間になること。会話がなくても相手が苦痛にならない人間の訓練だね。これが対話。


Q. がんになってから、色んな事で自分を責めてしまいます。元々自分を責めてしまうことが多くて。それで周りの人にもそういう気持ちが出てしまったりして。先生の講演を聞いて、愛という言葉が浮かんだけど、その愛が何なのか分からなくなっちゃいました。

A. 愛がなければ全ては無意味ということで、愛とは自分よりも困った人にちょっと寄り添えるかどうか。で、自分のことを無関心になって自己放棄をしない。
2つの道があってね、どちらの道に行くかを選ぶのは自分。雨は誰にも降るけども、傘をさすか、レインコートを着るか、家の中に入るか、どう対応するかは本人の自由意志。我々は自由意志が与えられている。使命というのは誰にも与えられて、その自分の役割、使命を探さないと。そういうのを1年間探すんだね。これが急に分かるもんじゃないよ。ということですね。

Q. あなたはそこにいるだけで価値のある存在とおっしゃったんですが、がんになるとなかなか気付けなくて、自分を責めるような気持ちになるんですけど、この気持はどういう風に持ち直せばいいんでしょうか。

A. 病気であっても病人でない。病気は仕方ないよ。そのことで悩むな。病人は自分で思うこと。どうせ我々は人間の寿命の120歳で死ぬよ。どんなに頑張っても120で死ぬ。

Q 「がんは防げないけれど、がんで死なない時代が来る」とおっしゃいましたが、天寿がんという言葉と合わせて補足で教えてください。

A. 僕の恩師が95歳の人を病理解剖した。そして本人も家族も老衰と思った。4ヶ月前から食事が出来なくなり、病理解剖すると大きな胃がん。それで食事はできなくなっていた。でも本人も家族も老衰だと思った。それを称して「天寿がん」と名付けた。天寿を全うしてがんで死ぬ。がんは心構え。不良息子と一緒に共存するんですね。がんは共存の時代になってくる。

Q. 先生の言葉に1日1時間悩む、それは読書ですっておっしゃってたんですけど、読書習慣があまりなくて。今日のお話もとても興味深いんだけど、難しく感じたところもありました。とっかかりとしてオススメの本がありましたらお願いします。

A. まぁね、僕の本でいいよ。(会場笑い)
本を読むとね、次に何の本を読みたいかっていうことができてくるからね。まず対象を持ってね。で、赤線を引くぐらいに読むんです。ネットなんかでペラペラペラペラ読んでも、ちゃんと熟読してないんですよ。1ページに赤線を1行引けるような読書をするということですね。

まだまだお聞きしたいところですが、ここで質疑応答は時間切れとなりました。先生の飄々とした柔らかいお話に、思わず笑ってしまったり、メモを取ったり、感銘を受けたり。とても温かい空間となりました。

講演後はがんと向き合う女性同士でのおしゃべり会!

ここで、講演会は終了。次は参加者同士のおしゃべり会です。
おしゃべり会と同時に、別室では希望者から抽選で選ばれた3名が、樋野先生の面談に臨みます。今回面談希望の方が大変多かったことからも、樋野先生のがん哲学外来の関心の高さがうかがえました。今回は人数が多かった為、外部からファシリテーターの応援もあり、おしゃべり会は10グループでの開催となりました。

始めに簡単な自己紹介。そして今日のテーマへ。樋野先生の講演の感想、心に残った言葉、がんになってから悩んだことや嬉しかったこと。40分のおしゃべり会、少し長いかなと思いましたがどのグループもお話に花が咲き、相当な盛り上がりを見せていました。

ちなみに私のグループは全員乳がんの方で、手術後のリバビリが話題にのぼりました。
術後腕が上がらない事に対して、リバビリに力を入れていて引き続き外来でリハビリを受けられる病院、入院中にちょこっとやってみておしまいの病院、リバビリの紙を渡されただけの方も。同病の人と、おしゃべりをして自分の不安や今の気持ちを喋る事によって、1人じゃないんだ、と気付いて心が少し軽くなったらいいなと思います。
おしゃべり会は、各グループの振り返りをファシリテーターが発表して終了となりました。

おしゃべり会の締めに、樋野先生からいただいた一言がこれまた印象的でした。「人生わけがわかんない。わけのわからないことをやる。わけのわかんない事に時間を費やすことが思い出作り。人生、思い出作り」

そして最後は樋野先生と参加された皆さんとの記念撮影でお開きとなりました。

お帰りの頃には、来館された時より晴れやかな顔で帰られる方が多く見られて、「言葉の処方箋」をしっかり受け取られたんだな、と感じました。そんなわけで、そろそろレポートを終えようと思います。機会があったら皆さんも是非、言葉の処方箋を受け取りに行ってくださいね。

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