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【夏の読書タイムにおすすめの1冊】「ひとまずがんの治療を終えたあなたへ」

わが家のまわりでもセミの大合唱が連日、うるさいほど鳴り響いています。
うだるような日本の夏の暑さに、すっかり身も心もバテ気味に。
そんな猛暑の午後に冷房の効いた部屋で手に取ってほしいのが、英国「ベスト・ヘルス・ブック賞」受賞作、『ひとまずがんの治療を終えたあなたへ』(図書刊行会)

英国の臨床心理士、フランシス・グッドハート博士と医療ライター、ルーシー・アトキンスの共著です。

右乳房全摘手術から3カ月が経ち、「ひとまず」以前の生活に戻りつつある私にぴったりの本でした。手術を終えて、少しずつ普段通りに過ごせるようになっても、日によっては、突然、再発などへの恐怖と不安に襲われます。そんな自分を、ゆっくり見つめ直すことができた1冊です。

がんの治療を終えると、さまざまな感情が生じます。治療の最中は、自身も主治医や担当看護師も、病気治療への対処に追われています。ところが、積極的な治療段階が終わると、ちょっとした喪失感や無力感に陥ります。私は退院後、主治医や病室の同じやまいの仲間たちから離れて自宅に戻った後、寂しさと心細さを味わいました。主治医や入院仲間が近くにいただけで、心の支えになっていたのです。そして、自分自身、どれだけ心を張り詰めていたことか。退院後、その気持ちをどの方向に向けてよいのかが、わからなくなってしまったのです。

『ひとまずがんの治療を終えたあなたへ』は、そんな私の心の道しるべとなった1冊です。

がんを体験すると、さまざまな種類のストレスを経験します。再発の不安、落ち込んだ気分やうつ、空回りするような思いや虚しさは夜に強まり、明け方までずっと眠れないこともあります。

英国で書かれたこの本は、「ひとまず」治療を終えたあとの気持ちへの対処方法について、生活の中でのヒントを与えてくれます。「不安」「うつと気分の落ち込み」「怒り」「自尊心と自分の体のイメージ」「周りの人との関係、パートナーとの関係とセックス」「疲労」「睡眠」「リラックス」など、がんを体験した私たちにとってどれも身近な話題ばかり。親近感のわく、様々な種類のがんにかかった主人公たちが繰り広げるストーリーとして語られるため、それぞれのテーマを「自分のこと」として捉えることができます。読者に語りかけるような口調もうれしいです。

さらに、読者自身が1日の活動を書き込む「活動記録」や「睡眠日記」など、読者参加型の本になっています。「がんになってすべてを失った」「何ひとつ以前のように楽しめなくなってしまった」と考えてしまうとき、自身が記入した「活動記録」を読み返すと、自分が思ったよりも家事や様々な活動をしている事に気づき、自尊心を取り戻すことができるのです。

「うつと気分の落ち込み」の章では、毎日シャワーを浴び、マッサージやマニキュアやペディキュアなどのご褒美を自分に与えるように勧めています。筆者は、身だしなみに気をつかうことは、自分自身に対してよい感情を持つためにとても重要なこと、と説きます。普段、身だしなみを忘れがちな私は、反省させられることしきりでした。

気分の落ち込みやうつ状態は、例え小さなことでもできることを成し遂げることから、少しずつ回復していきます。「睡眠日記」はベッドサイドに置いて、自身を悩ませる想いを書きこみます。それを「書き留めた」と脳が認識することで、後ろ向きな思考は「閉じられる」のだそうです。
また近年の研究では、ウォーキングなどの定期的な運動は、抗うつ薬と同じくらい気分の落ち込みによい効果をもたらすのだそうです。1日30分歩くことが、がんを経験した人によい影響を与えます。

本書で特にユニークだと思ったのは、想像上の南の島のビーチにいる自分を、映画監督になったような気分で視覚化する「視覚化法」などのリラックス法です。検査のため病院の待合室にいる時は、お尻に力を入れ、おなかをひっ込め、太ももを緊張させ、しばらくしてから力を一気に抜いてみると緊張がほぐれるそうです。ぜひお試しあれ。

今、この瞬間にも多くの人が、がんの治療をひとまず終えた後の気持ちと戦っています。がんとのたたかいの道筋は人それぞれ。「あなたの心に寄り添う処方箋がみつかりますように」と、グッドハート博士は語りかけます。

文:ピアリング編集部・ひまわり

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