ロンドンキャットさんは、ロンドン在住で2019年より乳がん治療をされています。2024年、治療をしながら夢を実現しました。イラストレーター・ロンドンキャットがどのように誕生したのか、お話を伺ってきました。
聞き手は同業者の先輩、グラフィックデザイナー望月ミサ(ピアリング理事)が務めました。
ミサ(以下ミ):まずは子ども時代の絵との関わりから聞かせてください。
ロンドンキャット(以下ロ):小さい頃から絵が好きで、小学1年から4年生まで「絵画教室」に通ってました。そこでは、静物画とか写生を絵の具で描いたりしていました。
でも家ではやっぱり漫画の模写もやりましたよ。ギャグ漫画が好きで、弟がいたから「ぬけさく先生」とか真似して描いていたのを覚えています。ドラえもんとかQちゃんとか藤子不二雄のキャラクターも描いた記憶はあるけれど……少女漫画は描いたことがなかったなぁ。
ミ:へぇー!根底にギャグ漫画のエッセンスがあるんですね。その次は、美術の学校に行ったのですか?
ロ:高校卒業して2年間デザインの専門学校に行って、グラフィックデザイン科のイラストレーション専攻でした。でもその頃は作風も特に定まらず、評価もあまり得られずで。ネットもSNSもない時代で「月刊 illustration」という雑誌の公募に載ってこそ仕事がもらえるみたいな狭き門でした。
で、結局デザイン事務所に就職してグラフィックデザイナーとして4年間働きました。そこでちょっとした挿絵とかは描いてました。
ミ:あー、よくありましたね、そのパターン。当時のデザイン事務所って、もうフル・デジタルでした?
ロ:いや、最初はまだ手でやっていました。
ミ:じゃあ、アシスタント時代に「写真のアタリとり」やらされた?
ロ:やりましたよ。
(印刷業がデジタル化される前は、写真の版をつくる職人へ、拡大率やトリミングの「指示書」を鉛筆で書くのがデザイナーの仕事でした。写真を紙に投影して形をなぞることを「写真のアタリをとる」といい、おもにアシスタントが担当したものです。)
ミ:それを知ってる世代でしたか。私はロンドンキャットさんより10年多くアナログの時代をやって、「写真のアタリ」を何万枚ととったからわかるんだけど、あれを画風にしようというのは本当に大変なこと。「写真をなぞれば絵ができる」って一般の人は思うのだろうけど、そんなことないんだから!
ロ:そうそう、絶対みんな簡単にできるって思ってるんだろうなぁと。
ミ:写真をなぞったら普通は絵にならないものです。味があって、なおかつ似ている線を選ぶというのは、ちょっとやそっとじゃできないですよ。
似顔絵を描き始めたのはどんなキッカケでしたか?
ロ:高校時代には手書きで似顔絵的な絵は描いていました。覚えているのは、バイト先のおじさんの顔が面白くて、そのおじさんの顔を学校の机に落書きしたことですね。(笑)
実家ではホワイトボードに家族の似顔絵を描いたりしてたので、弟から結婚式のウェルカムボード用に、弟とお嫁さんの似顔絵を依頼されたりしました。
大人になって、Macの時代になって、Macでイラストを描きはじめました。でも一人の似顔絵に何時間もかかって、根気もいるし、やめ時がわからない。修正してしまってから、前の方が良かったと思うことも多くて。大変すぎて似顔絵描きからは、しばらく遠のいていました。
ミ:そこから、どうやって復活したのですか?
ロ:数年後、やっぱり好きな友達の似顔絵を描き出したものの、どう描いても似ない友達がいて、個性的な人は描きやすいけれど、特徴がない人をどうやって似せるか悩んで、試しに写真をなぞって描いてみたんですけど、最初は全く似ていなくて。悔しくて何度も試みて、ようやく自分で納得できる似顔絵が完成して、そこから、特徴がない人もこれなら似顔絵を描けるなと思って、今の写真をなぞって描く技法になりました。
ミ:これまでに何人の似顔絵を描きましたか?
ロ:150人です!数えてみて自分でもビックリしました。気がついたらそんなに描いていて。特に沢山描いたのは昨年末です。弟のこともあって(2023年末に大腸がんで逝去)、忘れていたいことは色々あって、好きなことに没頭し、自分が出来ることをやろうと、ひたすら描いてました。
ミ:昨年はピアリングの通販サイト「ピアリング・トイ」でチャリティ似顔絵で活躍しましたね。ピアリングとしてお礼を言わせてください。
ロ:これまで、会ったことがない人を描いたことはなかったんです。写真だけではなかなか特徴がわからない。ピアリング・トイで、お会いしたことない人の似顔絵に挑戦をして、似ているのかな?と少し不安でしたが、それなりに喜んでいただけたようです。思いがけず、泣いてくれたり、喜んでいただけた声を聞くことができて、自信に繋がったし、イラストレーターとして独立してやってみようと思えました。貴重な機会を与えてくれたピアリングには私の方こそ感謝しています。
ミ:思いがけず泣いてくださった方のエピソードを紹介してもらっていいですか?
ロ:ペットのワンちゃんと一緒の似顔絵を依頼されたのですが、動物の似顔絵を描いたことがなくて、似せ方がわからなくて悩みました。でも「ワンちゃんを亡くされた」と知って、描いてあげたい!と思って頑張りました。「見た途端に号泣しました」ってお返事が来て、私の似顔絵でそんなに喜んでもらえるなんて!こんなことが誰かのお役に立つのならとやりがいを感じました。
ミ:それこそ、生成AIがなんでもつくってくれる時代にまでなったけれど、それでも「ロンドンキャットさんに描いてもらいたい」という方はいっぱいいます。その線には絵描きの魂が入っていると思います。描いているときはどんな気持ちですか?
ロ:写真をなぞると特徴が見えてきて、例えば、家族の似顔絵だと、このママの鼻と息子君の鼻は一緒で、目はお父さん譲りだなーとか観察しながら描いています。亡くなった方を描くこともあるのですが、その人の思い出とか、思い出しながら頭の中で会話しながら描いています。
そして、いつも「クスッと笑ってもらいたい」と思っているので、私はその人のそういう部分を切り取っているのだと思います。
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