皆さん、こんにちは。ピアリング編集部のひまわりです。
看護師であり、認定NPO法人「マギーズ東京」センター長の秋山正子さんが書いた『がんと共に生きていくときに、知っておいてほしいこと―人生を丸ごと抱きしめて生きるヒント』(山と渓谷社)を読みました。
訪問看護や在宅ホスピスで数多くの「生と死」の現場に立ち会ってきた秋山さんは、たとえがんと診断されても「自分らしさを失わず生きていく」ことの大切さを訴えます。
©Genki Moriya
本ではまず、がんで亡くなる前日に訪問看護で訪ねた喫茶店経営の女性のエピソードを紹介しています。
女性が自身の店を愛し、誇りに思ってきたであろうと想像した秋山さんは、苦しげな女性の耳元で「お店で、おすすめのメニューは何ですか」と聞きました。
女性はしばらく沈黙したのち、はっきりした大きな声で「愛嬌!」と答えました。意表を突かれて秋山さんも、見守っていた家族もみんな思わず笑ってしまったそうです。
人生の最後を迎えてなお、人を笑わせてくれた女性。秋山さんの少し唐突ともいえる問いかけに、この女性は人生をかけて守ってきた店のことを考え、そして、店を継ぐことが決まっている枕元の娘さんたちに、少しユーモアを込めてメッセージを伝えたのかもしれません。
「命の輝きは、最後の最後まで失われない」。秋山さんはそのことを自身の活動を通して学んできました。がんのみならず、人生にはさまざまな試練や困難が訪れます。思わぬ方向転換を迫られることもあれば、予期せぬアクシデントに見舞われることもあります。
私たち人間の死亡率は「100パーセント」。どんな人生であっても、誰もが必ず終幕を迎えます。その時に「これでよかったのだ」と思える生き方を送るために、この本に登場する方々から多くを感じ取ってもらいたい、というのが秋山さんの気持ちです。
本では、病院や医師との付き合い方、告知を受け、大きな不安の中にいる自分の取り戻し方、自分で「決める」ことがつらくなったらどうすればよいかなど、まるでベンチで隣に座って話しかけてくれるかのような穏やかな口調で、読者に寄り添って語りかけてくれます。
私(書評筆者)は今年1月、乳がんの告知を受け、生まれて初めて「私は死ぬのかもしれない」という恐怖で、夜も眠れなくなってしまいました。
秋山さんは本書に、まさにそのままの表現で「告知を受け『私は死ぬのかもしれない』と呆然とする人に必ずお話するのが、『がんは治らない病気ではない』『たとえ治らなくても、がんとともに生きる期間は十分長くなっている』ということ」と書いています。
秋山さんは「病気を得ても、あなたがあなたであることに変わりはありません」と語りかけてくれます。そして、診察結果は「耳4つ」で聞く(誰か信頼できる人に同席してもらう)こと、主治医が忙しくて話を聞いてもらえないと感じたときは、「限られた時間で多くの患者を診察しなければならない医師の立場を理解してあげること」「さまざまな性格の医師がいることを理解すること」などと、実際的な助言もしてくれます。
「主治医が忙し過ぎて……」という不満は、多くの患者が感じるものです。確かに医師は忙し過ぎるのだろうとは思いますが、そんな時、医師の立場をおもんぱかってあげるほんの少しの「ゆとり」を持てたなら、私たち患者の気持ちも楽になるのかもしれません。
秋山さんは、今は主治医が一人で治療方針を決めるのではなく、診療科全体で会議を開いて決めるので心配しなくてもよいこと、それでも患者と医師の相性のミスマッチもあるので、どうしてもだめな時は病院内の相談支援センターに相談したり、転院を考えたりしても良い、とアドバイスします。
「マギーズセンター」は、がんに直面して悩む患者本人はもちろん、家族や友人、医療従事者など誰もが気軽に立ち寄れる、病院でも自宅でもない非営利の〝サードプレイス〟。1996年に英国で誕生し、英国内に20箇所以上、香港、スペインなど各地に広がっています。
©Koji Fujii/ TOREAL
日本では2016年、秋山さんたちが中心となって「マギーズ東京」を発足させました。豊洲の湾岸エリアにありながら、四季を感じる庭があり、そよ風を感じながら散歩できる素敵な場所です。看護師や心理士などと無料で予約なしにゆっくり話のできる場ですが、コロナ禍の現在は事前に連絡をしての対面となっているほか、電話やメール、オンラインなどでも相談を受けています。リラクゼーションなどのグループプログラムもZOOMなどのオンラインで継続しています。
本の紹介を書くにあたって私は、ぜひマギーズのお話も含めて秋山さんに直接おうかがいしたく、オンラインでのインタビューを申し込み、快く応じていただきました。
秋山さんは「これまでならば病院帰りに仲間とカフェでランチをしたりして、悩みを分かち合い、不安を軽くすることもできた。今は人と自由に会えず、人とのつながりが途絶えてしまっています。ネットで不確かな情報を読んだりして、『自分もそうなるのでは』と不安に突き落とされることもある」と、コロナ禍での患者の気持ちを心配します。
©Koji Fujii/ TOREAL
「まずは、自分の病状や医師から伝えられた情報を、しっかり納得して受け止めてください。そして、自分はどう暮らしたいのか、もう一度見直してください。そのガイド役にマギーズ東京がなれたら、と思っています。隣に座って、その方が自分の力を取り戻すのをそっとお手伝いしたいと思っています」と秋山さんは語ります。
マギーズ東京
https://maggiestokyo.org/
住所:東京都江東区豊洲6-4-18
電話:03-3520-9913
開館時間:月曜〜金曜日(午前10時〜午後4時まで)※当面の間は来訪前に連絡が必要(当日の場合はお電話で)
メールアドレス:soudan@maggiestokyo.org
秋山正子(あきやま まさこ)さん
認定NPO法人「マギーズ東京」センター長
聖路加看護大学卒業後、臨床を経て大阪・京都にて看護教育に従事。1990年、実姉の末期がん闘病時に在宅ホスピスに出合う。92年より東京都新宿区で訪問看護に携わる。在宅ホスピスケアと訪問看護で多くの病む人とその家族に寄り添う。2016年、がん患者が気軽に立ち寄れる相談支援の場、「マギーズ東京」(英国発祥)をオープン。2019年、顕著な功績のあった看護師などに贈られる世界最高の記章である「第47回フローレンス・ナイチンゲール記章」を受章する。
文・ピアリング編集部 ひまわり