第34回笑顔塾を、9月21日(土) に開催しました。
今回のテーマは「子育てしながら がんと向き合うあなたに伝えたいこと」講師は、聖心女子大学 現代教養学部心理学科教授の小林真理子先生です。先生は、親ががんになった子ども、そしてその患者さん、ご家族を支援するNPO法人 Hope Treeの理事も務めていらっしゃいます。
①親ががんになったとき
②チャイルドサポート活動の紹介
まずは①親ががんになったとき、からお伝えしていきます。
親ががんになった時 それを知らされずにいると、子どもは悪いことを「実際よりうんと悪い方」に想像しがちだそうです。
親にとっても、真実を隠し続けることが大変な負担となるので、家族間のオープンなコミュニケーションがとても大切だそう。親子の信頼関係ができ、子どもの自己肯定感に繋がり、ネガティブな反応も減っていくそうです。
子どもに伝えるには「3つの”C”」がポイント。
・Cancer (がんという病気であることを伝える)
・not catchy(感染症のようにうつらないこと)
・not caused(誰のせいでもないこと)
ここで、子どもの世代別の特徴と反応をご紹介します。
小林先生が、子どもに読み聞かせながらがん(乳がん)のことをわかりやすく伝えるための絵本をご紹介くださいました。「おかあさん だいじょうぶ?」 という絵本で小学館から出版されています。
①のまとめとなりますが、治療中に子どもを支えるポイントは
・家族の日常のコミュニケーション
・医師の話を聞いた後、家族で話をする
・子どもたちに、最新の情報を知らせる
・子どもが質問を書くノートを用意するのもよい(家族LINEを作って活用するやり方も)
・学校の先生と連絡を取る
(担任じゃなくても学年主任や養護教諭など、この先生には話せるな、という先生)
①のパートの最後に状態が悪くなってきたときのお話がありました。
・子どもは真実から「守られる」(事実を聞かされずにいる)べきか?
・親の死から子どもを守ることはできない。
親が事実を伝えないまま亡くなってしまったご家庭の子どもが、大人になってからこう言ったそう。
「なんでそんな大事なことを言ってくれなかったんだ」
「それを知っていればもっと話をしたかった」
「もっとしてあげられたことがあった」
長い目で見れば、子どもに親の死が近いことを伝えることで、きちんと話をしてくれた人に対する信頼感が増します。
・CLIMBプログラム
がんになった親の子どものためのサポートグループのプログラム。1回2時間で6回行われます。
こちらのプログラムで大切にしていることは
・Commonality 孤立感を軽減
・Catharsis 気持ちの表出
・Connection 仲間とのつながり
詳しくは Hope TreeのHPに紹介されています。
・学校で支える
支援の本質は、子どもが安心して日々過ごせるように支えること。
「問題は必ずしもがんに関係しているとは限らないことを忘れない。」
子どもの変化の全てが、がんの影響かというとそうでもなく、全部が親の病気のせいではありません。
学校の支援について参考になる冊子がこちらです。
講演の最後に「危機と成長」についてのお話がありました。
「危」:不安、危険を伴うもの
「機」:好機、機が熟し飛躍するとき
・危機とは、悪い方に向かうか、良いほうに向かうかの重大局面
・2方向の分岐点
大切なのは
・家族のコミュニケーション
・学校・仲間との関わり
↓
PTG(post-traumatic growth) : 心的外傷後成長
子どもは困難を乗り越えていく力を持っています。小林先生がご紹介くださった冊子や図書・絵本、Hope Treeの資料を引用します。
ご講演の後は質疑応答を行いました。可能な限りご紹介します。
Q.思春期の子どもとの向き合い方のヒントがあればお願いします。
A.発達的にも難しい時期です。親のがんのことだけでなく学校の友人関係、進路のことなど上乗せされてきます。
一見何も聞いていないような、響いてないように見えることもありますが、実はとても響いているのです。こちらが期待していることをしてくれないというのは、ある意味普通の思春期。親としてはもうちょっと手伝ってほしいとか色々あるのでしょうが、そのへんはタイミングを見て、「◯◯をやってくれると助かるなぁ」と具体的に伝えてあげればいい。何をしたらいいか分かってないこともあったりするし、何か自分から進んですることが照れくさい世代でもあったりします。子どもが話せる親以外の人、こういう人に話を聞いてもらったらいいよ、というのを教えるのもいいかも。先ほどご紹介した冊子(だれも分かってくれない!)をお渡しするのもいいかもしれないです。矛盾する気持ちとか思春期の子ども向けに書いてるので、自分だけがモヤモヤしてるんじゃないということをお子さんに理解してもらうことも大事。
Q.「ママ死んじゃうの?」という質問に対してどう答えればいいのか
A.がんの場合だけじゃなくて、子どもは結構死に対して関心があります。意外に親が思っているほど深刻じゃなく聞いてくることもあります。(もちろん深刻に聞いてくることも多いです)
「ママが死んじゃうんじゃないかって心配になってるんだね」と、死ぬかどうかにストレートに答えるというより、それくらい今、不安な気持ちになってるんだねと気持ちを汲んであげることが大事。ストレートに答えるにしても「死ぬかどうかは分からないよ。死なないように今、ママは頑張ってるところだよ」と。
微妙で分からない、厳しい状態の時に聞かれたら「死なないよ」ではなく「死なないように頑張ってるよ」という伝え方は、嘘ではない真実じゃないでしょうか。
「死なないように病院に行って先生と相談しながらこういう治療をしている、だから時々お家に帰ってきた後だるくて横になっていることもある」などと伝えます。副作用の話をして、でもこれは死なないように薬が戦ってくれているからだと分かることによって、不安が軽くなる。原因が何かわからない時に人は不安になります。それがなんなのか具体的なことが理解できると不安が減ります。
・死んじゃうの?という不安な気持ちを受けとめる。
・今の治療について説明する。
Q.HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)をどう説明しようか、伝えようか
A.後にご紹介するHBOCの冊子に、お子さんに聞かれた時どのように伝えればいいのか、という項目があります。
発達段階ごとに、どんなふうに接したらいいのかをまとめた表もあります。理解できるような年齢になったらお伝えする。遺伝のことは難しいです。お母さんの診察にお子さんを連れていって先生から説明してもらったり遺伝カウンセラーさんの話を一緒に聞く方法もあります。
『遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!』 https://johboc.jp/guidebook_g2022/
>未成年の子にHBOCを伝える https://johboc.jp/guidebook_g2022/q24/
Q.シングルマザーです。私がいなくなると子どもが1人ぼっちになってしまいます。
A.子どもをサポートしてくれる人が少ない人にも言えることですが、なるべく親だけでなく子どもがいざという時に頼れる場所、大人を作っておく。学校もその一つかも知れません。学童、地域、世代を超えた誰でも使える居場所、こども食堂など。公的機関としては、18歳未満の子どもや家庭のあらゆる相談を受けているところとして、市区町村に「子ども家庭支援センター」(名称はいろいろ)が必ずあります。ソーシャルワーカー、保健師、心理士など、地域で子育てが順調にいくように、最初の窓口。そういうところに早めに相談する。自分は今こういう状態です、母子で頑張っています、自分は病気で…、サポートが必要ですと伝えておく。定期的に見守ってくれることもあります。
【小林先生が関わったあるご家族の例】
地域で見守りが必要なご家族がおられて、病院から子ども家庭支援センターに連絡をして、ぜひサポートしてほしいと連絡をしたら、家庭訪問と子どもには学校で会ってくれていました。地域の公的な見守りも一つかなと思います。児童相談所も18歳未満の子どもと家庭の問題の専門的な相談窓口。でも今は虐待対応で大変です。その手前でかなり広く開かれているのが、子ども家庭支援センターです。学齢期になると教育相談室(教育相談センター)があって、いろんな子どもの問題に関して個別に相談にのってくれます。それから地域の保健センターや保健所の保健師さんにつながっておくと、家庭訪問もしてくれます。子ども家庭支援センターなど他の機関と連携しているので必要に応じて繋げてくれます。使える制度やサービスも教えてくれます。(経済的なこと)早めにつながっておくのがいい。子どもの居場所を紹介してくれるかもしれません。(今挙げた機関の利用は)無料です。 講演中は、色々なケースをご紹介いただき、より具体的なお話を聞くこともできました。子育てしながら、がんと向き合っているみなさんのこれからのヒントになればと思います。
文:林 恵理(ロッカ)一般社団法人ピアリング 理事 編集:ピアリング編集部