7月18日(土)、第40回ピアリング笑顔塾「知りたい!自家組織による乳房再建―穿通枝皮弁からスカーレス(傷が目立ちにくい)広背筋弁までわかりやすく解説―」を開催しました。
2019年に起こったアラガン社インプラントのリコール問題以降、自家組織での乳房再建を検討される方が増えました。自家組織再建による柔らかく温かい乳房を求める一方、「健康なドナー部分に大きく傷が残るため、その一歩が踏み出せない」という方も多いのが現状です。
そんな中、2021年の「ジャパン・キャンサー・フォーラム」乳房再建セッションにて、背中に大きな傷を残さない広背筋弁法があるということを知り、衝撃を受けました。最近では患者さんからも「この方法で再建したい」という声が多く聞かれるようになりました。
そこで、乳房再建に深く注力されている近畿大学医学部形成外科学講座の冨田興一先生をお迎えし、自家組織再建の現状と最新情報、特に背中に大きな傷を残さない「スカーレス広背筋弁法」についてわかりやすく教えていただきました。
冨田先生はスカーレス広背筋弁法の第一人者として日々、患者さんの治療にあたっている乳房再建のスペシャリストで、患者さんからは腕も人柄も信頼できる先生として慕われています。

乳房再建を希望される理由は本当に様々です。「左右差を少なくしたい」「好きな服を着たい」といった見た目の理由もあれば、「また温泉に行きたい」「以前の自分に近づきたい」といった、日常生活の気持ちの面が理由になることもあります。また、「孫に怖がられたくない」「乳がんになったことを知られたくない」など、ご家族との関係がきっかけになる方もいます。
目指す乳房の形や抱える思いが違えば、一人ひとりに適した再建方法も異なります。
乳房再建では「どの方法が一番いいですか?」という質問をよくいただきます。
しかし、その答えは一人ひとり異なります。
まず大切なのは「どんな乳房にしたいか」です。大きさや左右差を揃えたい、自然な柔らかさや動きを大切にしたい、下垂感まで再現したいなど、希望は人それぞれです。
一方で、それを実現するためには受け入れるべき点もあります。新たな傷ができる場所、手術の負担や回数、回復期間、そして合併症のリスクなどです。

シリコンインプラントを使う方法で、日本でも広くおこなわれています。
最近のインプラントはかなり改良されていますが、柔らかさや自然な動きという点では自家組織には及びません。また、永久的なものではなく、長年の経過で拘縮や破損が生じ、再手術が必要になる場合もあります。現在はラウンド型インプラントが主流です(※アナトミカル(しずく型)は製造中止)。
メリット
デメリット
向いている人
慎重に検討すべき人

ご自身の組織を使用するため柔らかく温かみがあり、自然な乳房を作りやすいのが大きな特徴です。年齢や体重変化にも比較的対応して、長期的なメンテナンスの手間も少なくなります。
一方で、組織を採取したドナー側の負担、手術時間が長くなる、血管をつなぐ手術では稀ですが再手術が必要になることもあります。
講義では4つのドナー(組織採取部位)について、豊富な症例写真を交えながら解説していただきました。
①遊離腹部穿通枝皮弁(DIEP)
深化腹壁動脈と呼ばれる血管を皮膚・脂肪とともに切り離し、胸部の血管と顕微鏡下でつなぐ方法です。左右の血管を採取することで全ての領域をカバーしたり、中央で二つに分けて両側の乳房を同時に再建することも可能です。
メリット
デメリット
向いている人
慎重に検討すべき人

②広背筋皮弁(+脂肪注入)& 広背筋弁(+脂肪注入)
背中に広背筋という薄く広い筋肉を使用します。ボートを漕ぐ動作などで使われる筋肉です。この筋肉を移植に使っても周囲の筋肉がカバーするため、日常生活で不自由なことはほとんどありません。脇から出ている血管を繋げたまま背中から胸へ広背筋を移動させます。
広背筋だけではボリュームが不足することが多いため、お腹や太ももから採取した脂肪を注入で移植することで、大きくして、乳房のボリュームや形をより自然に整えるということもできます。
従来の広背筋皮弁
メリット
デメリット
広背筋皮弁+脂肪注入
メリット
デメリット
★スカーレス広背筋弁の特徴★
乳がん手術の傷あとだけを使って背中の筋肉を胸に移動させるため、乳房再建のための新たな傷を背中に作らずに済むのが最大のメリットです(※放射線治療を受けていない場合、エキスパンダーで皮膚を伸ばして適応させることも可能)。ロボット支援下の乳がん手術のように次世代の手術にも適しています。
向いている人
慎重に検討すべき人


③遊離大腿内側皮弁(PAP)
大腿深動脈と呼ばれる血管を皮膚と脂肪をつけて切り離し、胸部の血管と顕微鏡でつなぐ方法です。
お腹から十分な組織が取れない痩せ型の方や、お腹に傷を作りたくない方に適しています。また、筋肉もほとんど傷つけないというのも特徴です。PAPは程よい大きさに皮弁を取ってくることができるため、部分切除後の修正にも適しています。
メリット
デメリット
向いている人
慎重に検討すべき人

どの自家組織再建を選ぶ?
「遊離腹部穿通枝皮弁DIEP」「広背筋皮弁(+脂肪注入)」「広背筋弁(+脂肪注入)」「遊離大腿内側皮弁PAP」の3つの再建方法を冨田先生に教えていただきました。
では、どの自家組織再建を選べばいいのか?
それぞれのメリット・デメリットを理解した上でドナーを選ぶ、と言っても、簡単には選べないですよね。
冨田先生はドナー(採取部)を選ぶ基準として、「採取部犠牲(新たに生じる皮膚の傷と、筋肉の犠牲)」を重視されているそうです。
DIEP(腹部):お腹に長い傷は残るが、筋肉の犠牲は少ない。一度に多くの組織を移植できるため、大きめのサイズや放射線治療後の皮膚再建にも向く。
スカーレス広背筋弁:新たな傷はほぼ増えないが、筋肉の犠牲はある。中等度までの乳房、痩せ型の方に向く(放射線治療後や予定している方には適さないことがある)。
PAP(太もも):傷の目立ちにくさと筋肉温存のバランスが良い中間的な位置づけ。痩せ型の方、お腹に傷を作りたくない方に適しているが、大きい乳房で放射線治療後皮膚を大きく足さなければいけない人に制限がある。
このように乳房の大きさや乳がん治療の内容というのも、術式を選ぶ上で重要となるそうです。

最適な再建方法は、人それぞれです! ―冨田先生からのメッセージ―
「どれが一番良い方法ですか?」と聞かれたとき、冨田先生は「一番良い方法はありません。一人ひとり体型も違いますし、治療内容も違います。また、希望する乳房の大きさや形も違います。できるだけ傷を少なくしたい、自然な柔らかさを大切にしたい、仕事に早く復帰したいなど、大切にしたいことというのが人それぞれですので、再建方法はどれが一番優れているではなくて、ご自身にどれが一番合っているかで選ぶということが大切だと思います。」とお答えになっていらっしゃるそうです。
「乳房再建はこの十数年で大きく進歩し、患者さんが選べる方法も増えてきました。しかし、今一番良い方法というのはありません。体型や乳がん治療内容だけでなく、どんな乳房を希望されるのか、どこまで傷や手術を受け入れられるのか、そして何を一番大切にしたいのかによって最適な方法というのは変わります。だからこそ我々再建外科は、この方法が一番です、と決めつけるのではなくて、患者さんと一緒に考えて一緒に選んでいくことが大切だと思っております。」

第40回ピアリング笑顔塾、いかがでしたでしょうか。
乳房再建は本日お話いただいた自家組織再建の他にインプラント再建、脂肪注入再建など、様々な選択肢があります。
後悔のない、納得のいく選択をするためには、正しい情報を幅広く知ることが大切です。「知っていて選ばなかった」ことと、「知らなくて選べなかった」ことには大きな違いがあります。
冨田先生のお話にあったように、「一番良い方法」を探すのではなく、「あなたに合った方法」が見つかることを願っています。
不安や怖さもあるかと思いますが、ぜひ焦らずに再建への一歩を踏み出してみてください。
今回は事前質問が非常に多く寄せられたため、当日の質疑応答時間は文章回答形式に変更させていただきました。セミナー直前や当日に寄せられた疑問、質問についても、冨田先生が後日全て丁寧に文章でご回答くださいました。冨田先生のご協力に心より感謝申し上げます。
事前質問は「温存術後の再建」「乳房再建全般(再建時期、放射線照射後の再建、妊娠出産との兼ね合い、インプラント再建、三次再建)」「自家組織再建(ドナーの選択、両側再建、手術・入院・回復期間)」「スカーレス広背筋弁」「術後ケア」「傷あとケア」「脂肪注入」「実施施設、医師や病院の探し方」など多岐にわたりました。
治療や再建の道を選択していく上での貴重なヒントとなれば幸いです。
(文:一般社団法人ピアリング理事 瓜生享子(うり))
